2024年7月5日番場大博士

2024年7月5日

番場 大  博士

東北大学生命科学研究科 助教

共生進化のパラドクスを解く:なぜ共生関係は多様なままなのか?

要旨
生物間の相利共生関係には,質の低い共生者を排除するための機構が進化的に不可欠である。例えば,マメ科植物と根粒菌の窒素固定共生においては,窒素固定を行わない根粒菌 (チーター) を排除する制裁機構 (Sanction) や高い窒素固定効率を示す根粒菌と優先的に関係を築く選択機構 (Partner choice) が存在する。このような共生者の質を常に高く維持する機構が存在しない場合には共生関係は必ず崩壊する。そのため,これらの機構は総称して共生関係の安定化機構と呼ばれる。一方で,共生関係の安定化機構が有効に働いている条件下では,進化の過程で共生者の多様性が減少し続けることが予想される。しかし,野生環境下における共生関係はしばしば多様化しており,その質も様々であることが観察される。このように進化的に必須な共生関係の安定化機構が働いているにも関わらず,共生者の多様性が維持され続けることは共生進化のパラドクスの1つとして扱われる。
  本セミナーでは,マメ科植物ミヤコグサとその共生根粒菌の関係に着目し,共生者の多様性減少に抗う機構に関する研究を紹介します。共生関係が成立,維持,進化する過程について皆さまと議論できたらうれしいです。