2024年1月25日坪井助仁博士

2024年1月25日

坪井 助仁  博士

ルンド大学 海外学振

小進化と大進化の架け橋「漏斗モデル」の提案

要旨
進化生物学に残る最大の課題一つは、個体群を対象に世代間で生じる進化プロセス(小進化)がどのように種以上のスケールで見られる進化プロセス・パターン(大進化)を生み出すかを理解することである。しかし、これまで小進化と大進化を統一的に説明するのは困難であると考えられてきた。なぜなら、これら2つのスケールを対象とした観測には様々な矛盾が存在するからである。例えば、現生の個体群を対象とした研究からは、多くの量的形質には自然選択に対して応答する能力(進化能:evolvability)が備わっていることが示されてきた。適応放散や人為選抜実験の結果からも、進化能が生物の個体群に普遍的な性質であることがわかる。これとは対照的に、化石記録を対象とした研究からは地質学的な時間(数百万年以上)をかけても量的形質がほとんど変化しない「停滞」が支配的なパターンであることが知られてきた。そのため、小進化と大進化が少なくとも部分的には本質的に異なるプロセスに支配されているとするのが現在主流の考え方である。本発表では、この説を覆す傍証である「分散多様性相関」を紹介し、その説明原理として「漏斗モデル」を提案する。演者らが2016年から行ってきた系統比較解析(phylogenetic comparative analyses)、飼育実験、および野外における自然選択検証の結果を検討し、(1)分散多様性相関の普遍性、(2)漏斗モデルの妥当性、および(3)小進化と大進化を統一的に説明する試みの展望について議論したい。