2023年10月26日徳山奈帆子博士

2023年10月26日

徳山 奈帆子 博士

京都大学 野生動物研究センター 助教

ボノボのメス優位・中心社会の進化を探る

 集団生活には、様々なメリットとコストが存在する。例えば、複数個体で協力して集団外の個体から資源を守ることができる一方、集団内の個体同士で資源を巡る争いが生じる。集団で暮らす霊長類の多くには、個体間に社会的順位が存在する。順位関係の厳格さは種によって異なるが、おおむね高順位個体は低順位個体よりも集団生活の利益をより多く享受することができる。個体の順位決定には身体的能力だけではなく、その個体が持つ社会関係や血縁関係により得られる他個体からのサポートも重要なファクターである。とはいえ、性的二型がある種においては直接的な闘争でメスがより大きなオスに勝ることは難しく、オスがメスに対して優位となりがちである。

 ヒトと最も進化的に近い大型類人猿2種、ボノボとチンパンジーは、外見や基本的な生態は似ているものの、その社会は大きく異なる。オス間に激しい順位争いが存在する一方でオス同士が強い親和・協力関係を結ぶチンパンジーでは、すべてのオスがメスよりも高い社会的順位をもつ。一方ボノボにおいては、オス同士よりもメス同士が強い親和・協力関係を結ぶ。集団内で高い社会的順位を持つのはメスたちであり、採食行動や群れが移動するタイミング、交尾などさまざまなシーンで主導権を握る。オスよりも体が小さなボノボのメスたちが、オスよりも優位に振舞うことができるのはなぜだろうか。これまでの研究で、複数のメスが連合を組んでオスに対抗することで、メスの集団内の優位性が獲得・保持されていることが分かってきた。メスが他のメスに対して協力的に振る舞うことがそのメスの息子の繁殖成功、つまりメスにとっての孫の増加に役立つと考えられる。