2023年4月27日香月雅子博士

2023年4月27日

香月雅子 博士

東京都立大学 客員研究員

基本は見る、測る。「今できることをやる」から続いた昆虫の武器の研究

 昆虫といえば、大きくて目立つ立派なツノや大顎を持つカブトムシやクワガタを思い浮かべるだろう。これらの武器はどうようなことに使われ、大きさによってどのようなメリット・デメリットがあるのだろう?大きな武器を持つオスは喧嘩には強そうだけど、移動や交尾には邪魔ではないのだろうか?想像してみると色々なことが思いつくが、実際にカブトムシやクワガタで形態や行動を観察し、検証しようとすると難しい。少なくとも、虫の飼育が得意ではない・夜の森で観察する度胸のない私にはできる気がしない。おかれた環境でどのような形質を持つオスが有利で次世代により多く子どもを残すのか、ということに興味を持っていた私が出会ったのが貯穀害虫と言われる虫たちである。

 貯穀害虫といわれる昆虫たちは、様々な環境でも繁殖・増殖できる強さを持っている。つまり、飼育しやすく、操作実験も行いやすい。年間を通して個体を得られるので実験室内でいつでもじっくりと昆虫の行動も観察することができる。私はこれまで主に貯穀害虫を対象に、雄の繁殖形質について観察し、研究を行ってきた。本講演の前半は、私が扱ってきた貯穀害虫のひとつである、オオツノコクヌストモドキの研究を紹介する。オオツノコクヌストモドキはオスが肥大した大顎を持ち、オス間で闘争行動を示す。本種とその捕食者を同居させる実験室進化実験を行い、捕食者の存在によって、武器を持つオスと持たないメスの行動や形態にはそれぞれどのような進化が起こったのか紹介する。

 後半は、オオツノコクヌストモドキと同様、オスが肥大した後脚(武器)を持つフェモラータオオモモブトハムシの武器形質の研究について現在進行中の研究を交えて紹介する。本種は貯穀害虫ではないのだが、本種の特性を利用して、二児の育児という研究時間の確保が不安定な環境下(この要旨を書いている今も保育園を休んだ元気な息子が隣にいる)で、共同研究者たちの協力を得て研究を進めることができている。フェモラータオオモモブトハムシに関する武器形質の研究と共に一研究者のライフステージに応じた研究への取り組みの変化もお楽しみ(?)頂けると幸いである。

 

参考文献