2022年10月6日安西航博士

2022年10月6日

安西航 博士

広島市安佐動物公園 技師

研究活動から考える、日本の動物園

動物園や水族館の社会的役割は、娯楽・慰安施設から生物多様性保全の拠点へと変わりつつあります。正確には「変わろうと藻掻いている」という表現が適切かもしれません。新たな役割を全うするには希少動物の生態を把握し、飼育個体の福祉を改善し、より効果的な教育普及活動を行う必要があります。そこで、業界内の様々な活動を科学的な研究成果に基づいて評価すること、それらを広く発信していくことが重要視されるようになってきました。世界の動物園発の研究論文数を定量化した報告によれば、ここ数十年で論文数が大きく増加したことと、研究分野が多様化していることが示されています。しかしその分析結果の中心は欧米の動物園で、残念ながら日本の動物園については全く触れられておらず、国内では研究活動の発展が遅れていることが窺えます。

 とは言え、日本動物園水族館協会も「調査研究」をその役割の一つとして掲げており、全国の飼育現場では様々な取り組みが行われています。大学等との共同研究も盛んになりつつあり、研究専任の部署やポストを設置する園館も出てきました。本講演では、まさに過渡期にある「日本の動物園業界における研究活動」についてお話します。そもそもなぜ欧米に比べて研究活動が遅れているのか、実際にはどれだけの研究実績があるのか、今後どのように進んでいけばよいのか。国内動物園発の研究論文数を60年分集計した分析結果と、演者が現場で行なった研究例を紹介しながら、動物園水族館の現状について考える機会にできればと思います。

参考文献