2022年9月1日中山卓郎博士

2022年9月1日

中山卓郎 博士

筑波大学 計算科学研究センター 助教

現在進行中の細胞内共生進化を観察する:

配列データから得た進化のスナップショット

種の進化は分岐の繰り返しの系統樹で解釈されますが、生物全体の進化を概観すると過去に起きた「枝の融合」が現在の地球環境や生命の有り様に大きな影響を与えたことが示唆されています。植物に代表されるような葉緑体を持つ真核生物は、まさに枝の融合の繰り返しによって確立された生物群です。光合成を行う生物が全く異なる生物と細胞内共生することによって複数の真核生物が「植物化」したとされ、その進化は系統樹上の異なる枝と枝の融合と解釈できます。進化的キメラとも言えるこれらの光合成系統は、炭素固定を通じて陸域・海洋を問わず現在の地球上の生態系の根底を下支えする不可欠な存在です。

 では、それぞれ異なる起源・体制・機能をもつ生物同士が細胞内共生し、同一の生物として統合する進化とはどのようなものでしょうか?この問いに対して未だ我々は詳細な答えを持ちません。この主な要因は主要な細胞内共生イベントがいずれも太古の昔に起きたものであり、その進化過程を詳細に検証するための情報が現在の生物にほとんど残されていないことにあります。私はこれまでの研究において、これまで注目されてこなかった「細胞内共生進化の途中段階」にあると目される単細胞生物同士の共生関係に着目し、複数のケースについてその特性や進化を研究してきました。主にゲノム解析やトランスクリプトーム解析を通じて、細胞内共生進化のスナップショットを現生の生物から集め、整理し理解することを目標としています。本発表では主に有殻アメーバおよび珪藻の細胞内に共生するシアノバクテリアの研究結果を軸に、これまでの研究についてお話したいと考えています。

 

参考文献