2021年4月23日松前ひろみ博士

2021年4月23日

松前ひろみ博士

東海大学 医学部基礎医学系分子生命科学

ガチンコ!異分野“データ”融合による進化研究

ゲノムと文化の関係を探る

飛躍的に高まるゲノム解析技術に対して、表現型や環境因子などの周辺の定量データをどう統合して進化研究に展開していくか。その一つ事例として、ヒトの文化データの解析を取り上げる。文化は定性的に記述・解釈されることが主流である。しかし文化はヒトの進化史に重要な役割を担っており、表現型や環境因子に近いものと位置づけることができる。私たちは、ゲノムから分かる民族集団史と、定量化された文化データ(音楽や言語)の間に関連があるのか、北東アジアを対象に統計解析を行った(文献1, 2)。その結果、これまで言語学的な繋がりが薄いと言われてきた民族集団においても、文法の類似性指標を用いれば、集団史と同等に言語族を超えた繋がりが浮き彫りになることを世界で初めて示した。そして、文化はゲノムと同じように進化的な情報を保持している可能性が示唆された。同時に、文化をデータ化し、人類学や進化学の研究に展開することで、文化情報の新しい活路を切り開いた(文献3)。今後は、情報学的基盤として、オミックス(ゲノム)データとその精度に合わせた形で、周辺の文化データ、マクロデータ(生物多様性情報)などを整備・統合化していき、進化学として調理することが重要になると考えている(文献4)。そうした展望も踏まえて議論したい。

参考文献

文献1. Matsumae et al, bioRxiv, 2019 (revision posted, November 14, 2020).

文献2. 生命誌研究 vol.102

文献3. 松前ら「文化×バイオ×コンピュータでの解析-言語類型論に基づく言語データベースとゲノムデータの統合的解析の提案(情報処理学会・人文科学とコンピュータ研究会, 2020). 山下記念研究賞受賞論文

文献 4. 松前らMuseomics研究への誘い〜博物館がインフォマティクス研究のメインアリーナとなる日に向けて〜 」日本バイオインフォマティクス学会ニュースレター, vol 34, 20188月号