要旨
本講演の主題は種分化である.種の多様性は、継続的かつ動的な種分化の結果であり,単純には1つの種が2つの種に分かれることを指す.ここでは,生物学的種概念biological species conceptに基づき,種分化とは生殖隔離の進化として捉える.この生殖隔離の進化は様々な要因により生じるが,その大きな要因の一つとして集団の隔離が挙げられる.いわゆる異所的種分化が本講演のメインテーマである.物理的な分断イベントによる遺伝子交流の制限によって独立した集団がどのようにして分化し,生殖的に隔離されるかについて着目した.本研究で対象とするガガンボカゲロウ科Dipteromimidaeは日本固有科であり,1属2種と小さな分類群を構成する.限定的なハビタットである山岳源流域に適応し,分散力も低いため,本種群のハビタットは孤立・散在的となりがちである.その結果として,各集団レベルでの遺伝的固定化が進みやすく,遺伝的浮動(random genetic drift)の影響を強く受けることとなる.はじめに,ガガンボカゲロウDipteromimus tipuliformisを対象に生物系統地理研究を実施した.遺伝子解析として,mtDNA 16S rRNA, COI領域とnDNA histone H3, 28S rRNA領域に基づく系統解析,そしてトランスクリプトーム解析やGRAS-Diを用いたゲノムワイドなSNPsの探索を実施した.その結果,地域ごとに遺伝分化していただけでなく,日本列島形成史初期の地質学的イベントの影響を受けていることを明らかにした.また,地域集団レベルでの遺伝的分化の大きさは,他のカゲロウ類における種間レベルの分化にも相当するにも関わらず,外部形態などの分類の鍵となるような形態形質に差異は認められていない.いわゆる隠蔽種である可能性が高い.そこで,大きく遺伝分化したガガンボカゲロウの地域集団間における生殖隔離の程度を調べるために,「ハンドペアリング」法を用いた繁殖実験を実施した.従来の形態分類では1種として扱われるガガンボカゲロウ種内には,生殖的隔離機構の様々な段階を示す複数の遺伝系統群が包含されていることが明らかとなった.「種分化連続体」と呼ばれるような,進化生物学研究における重要なkey taxaになりうる種群であり,種分化機構や多様化機構の検討における興味深い知見を提供し得る.永い期間の分集団から種分化に至るメカニズムとその様々な過程について議論する.
参考文献
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