2021年3月26日末永雄介博士

2021年3月26日

末永雄介博士

千葉県がんセンター研究所 発がん制御研究部

Coding RNAとNoncoding RNAを分かつ原理とは何か?

―小児がん研究をきっかけとした遺伝子進化研究

10才に満たない幼い子どもが患うがんに神経芽腫があります。神経芽腫はその名の通り神経細胞やその前駆細胞からできるがんで、胎児においてこれら細胞が異常に増殖することが原因と考えられています。この異常な増殖にはMYCNというがん遺伝子が関与しており、MYCNを抑制することが神経芽腫の有効な治療法になると考えられています。私はこのMYCNを治療標的として研究する中で、MYCNのアンチセンス転写産物NCYMがヒトやチンパンジーでのみ100アミノ酸以上の読み枠を持つことを見つけました。公的データベースではこの転写産物はlong non-coding RNAとして登録されていましたが、ヒト神経芽腫細胞では実際にNCYMタンパク質が発現し神経芽腫の遠隔転移を促進することがわかりました(Suenaga et al., PLoS Genetics 2014; Suenaga et al. Jpn J Clin Oncol. 2020)。

 不思議なことにこのNCYMタンパク質は既知のタンパク質と全く相同性がなく、既知のドメイン構造もありませんでした。その後の比較ゲノム解析からNCYMはヒト亜科においてlong noncoding RNAから全く新規に出現したcoding遺伝子(de novo遺伝子)であると結論づけました。これが遺伝子進化の研究と出会ったきっかけです。

 本講演では、「任意のRNA配列からそのRNAのcoding 確率が計算できないか?」というコンセプトをもとに考案したスコア(PTIスコア)について紹介し、約340万転写産物(100生物種とウイルス105種)の解析から見えてきたcoding RNAとNoncoding RNAの境界とその進化について議論します。また、現在ヒトにおいてlong noncoding RNAと登録されている遺伝子の中にもcoding 確率が高いRNAが存在し、大脳発生やがんと関連することが示唆されました。このことは現在long noncoding RNAと登録されている遺伝子の中に種を特徴づけるde novo遺伝子が多数存在する可能性を示しています。De novo遺伝子研究に興味を持っていただき、様々な生物種において解析が進むことを願って発表いたします。