2020年8月28日福島健児博士

2020年8月28日

福島健児博士

University of Würzburg

Department of Botany I - Molecular Plant Physiology and Biophysics

新奇で陳腐な食虫植物の進化

食虫植物といえば、多様な植物を取り揃えた植物園でもとりわけ人気の存在である。落ちた昆虫をドロドロに溶かしてしまうウツボカズラの捕虫袋や、獲物の動きを感知するハエトリソウの捕虫器、粘着液で虫を絡め取るモウセンゴケなど、我々が日常的に目にする植物とは明らかに異なった特徴に、多くの人々が魅了されてきたに違いない。進化学の祖、チャールズ・ダーウィンも例外ではなく、彼が食虫植物の虜であったことをうかがわせる記録が多数残っている。例えば、『種の起源』出版(1859年11月24日)のちょうど一年後(1860年11月24日)、地質学者チャールズ・ライエルへ宛てた手紙で、彼は『私は世界の全ての種の起源よりもモウセンゴケに関心を持っている。(“I care more about Drosera than the origin of all the species in the world.”)』とまで述べている。ダーウィン以降も、多くの研究者が食虫植物の研究に取り組み、数々の学術的成果を挙げてきた。そして近年、ゲノム解読技術の革新を追い風に、その進化過程について複数の足掛かりが得られつつある。本発表では、表現型可塑性、前適応、遺伝子転用、分子収斂など、その鍵となる現象に着目して、食虫植物の進化を解き明かす試みについて紹介したい。